【地域づくり事例】“やっぱり地域で育てたい”大崎海星高校魅力化プロジェクトの進化
【団体プロフィール】
令和4年度 ひろしま里山グッドアワード 未来のたね賞受賞
一般社団法人まなびのみなと (豊田郡大崎上島町)
2019 年設立。「誰もが学びに出会う日常を」をビジョンにかかげ、大崎上島を拠点に地域と協働した子どものキャリア教育や学習支援などを行う。
地域をあげて乗り越えてきた
島唯一の県立高校の廃校危機
私たち、一般社団法人まなびのみなとは、「大崎海星高校魅力化プロジェクト」の取組から発展してできた団体です。“学びの場づくり”と“学ぶきっかけづくり”という大きな2つの軸で、さまざまな取組を行っています。
まず、「大崎海星高校魅力化プロジェクト」についてです。この取組は平成26年に、広島県教育委員会の方針として打ち出された「今後の県立高校の在り方に係る基本計画」を機にスタートしました。その方針とは、平成29年・30年の2年連続で全校生徒が80名未満になった場合、高校の統廃合を検討していくというものです。このままでは島唯一の県立高校がなくなってしまうという危機に直面したため、地域をあげて高校を存続させるための大規模なプロジェクトを行うことになったのです。
プロジェクトでは主に「大崎上島学」「公営塾『神峰学舎』」「教育寮コンパス」の3つの取組を柱とし、大崎海星高校に入学した生徒たちが“ここでしかできない学び”を提供することで、ここで学んでよかったと思えるような環境を整えています。プロジェクト開始からもうすぐ10年目となりますが、2022 年現在、県外からも学生が集まるようなまさに魅力溢れる学校になりました。
当法人のメンバーが本業で運営している公営塾では、“自律した学習者”となることを目的に、学習指導以外にも生徒たちのやりたいことを深堀する学習やキャリア教育支援なども行っています。また、学外で運営する「ミカタカフェ」は、子どもたちが気軽に立ち寄れる学習スペースとしての役割と、地域住民と子どもたちが偶発的に関われる場所としての役割を持っています。
大崎海星高校からはじまった
地域と学びを連携した事業展開
そもそも私たちの団体は、約4年前に立ち上がりました。大崎上島には、当時から地域おこし協力隊のメンバーが多くいましたが、彼らが卒業した後の受け皿的な機能をもつ場所が島内にあまりなく、卒業後に島を出ていってしまうこともありました。協力隊として魅力化プロジェクトに関わっていたメンバーも、卒業を機に離れてしまうという状況を打開するべく団体を立ち上げたことで、まなびのみなとに所属してもらいながら、“高校を核としたまちづくり”にさらに深く関わってもらえるようになりました。この団体を立ち上げる少し前の2018年、閣議決定で、学校を中心とした地域づくりの強化が打ち出されました。それまでは大崎海星高校が直面したように、生徒数の減少した高校は統廃合するという方針だったものから、高校を核として地域の機能を強化するような町づくりをしましょう、という方針に転換したのです。
この頃から、全国的にも地域での学校支援について潮目が変わり始めます。行政の構造上、地域の小中学校と県立高校とでは管轄が違うため、高校は地域の中でもある意味独立していました。中山間地域や離島の人口減少が問題にならなかった頃はそれでもよかったのですが、人口減少が叫ばれ始めた中、地域の最高学府である高校が学力向上のために偏差値を上げれば上げるほど、地域からの人材流出が問題視されていたのです。私たちはそれ以前から、独自でプロジェクトを始めていましたが、国の方針転換も追い風となり、大崎海星高校と同じような状況にある全国の学校関係者からも注目され、学校の視察や学校同士の連携も生まれるようになりました。
「教育の島」から伝え続けるのは
学びを軸にした地域づくり
現在取り組んでいるのは、その大崎海星高校魅力化プロジェクトがきっかけで始めることになった、「全国高校生マイプロジェクトアワード 広島県サミット」です。これは、2021 年に認定NPO 法人カタリバと連携してはじまりました。全国各地の高校生が探究学習やプロジェクトに取り組み、そのプロセスを通して自分自身への新たな気づきや他者・社会との協働の価値を再発見するとういうものです。各地での「地域サミット」開催後に選考で残ると、「全国サミット」に出場できるという日本最大級の学びの祭典です。
この運営に併せて、2022 年度からはマツダ財団の補助金を活用し、新たに先生同士や生徒同士のコミュニティ作りに取り組んでいます。将来的には先生や生徒だけでなく、地域の魅力的な大人にも積極的に関わっていただき、広島県全体で高校生を応援する土壌や文化を作るコミュニティにしていけたらと思います。
私たちは、“高校の魅力=地域の魅力”だと考えます。特に中山間地域や離島においては、高校の価値を再認識してほしいのです。それは地域をフィールドに学ぶことで、生徒たちの能力が向上するだけでなく地域も変容してくるということを、この島で実際に目の当たりにしたからです。ある方は、高校に関心がなかったけれど一緒に地域活動をするなかで、次はこんな企画はどうか?と提案するまでになりました。高校生たちと活動することで自分達を省みたり、地域の良さを再認識するきっかけになっているのです。
「教育の島」であるここ大崎上島から全国へ、私たちが思う魅力的な町づくりの方法をこれからも伝えていきます。