【チーム500登録者インタビュー】北広島町 河野弥生さん

【チーム500登録者インタビュー】北広島町 河野弥生さん


「ときめき資本主義」をモットーに
もんぺを活用して地域おこし


河野 弥生さん


香川県出身。2001年、結婚を機に北広島町芸北に移住。現在は認定NPO法人で環境保護に関する仕事をしながら、もんぺるの代表を務める。


河野さんのキーワード


1. 個性を生かしたチームワーク
2. 里山でゆかいに過ごす
3. 環境保全としてのもんぺ




北広島から発信する
着物で作るもんぺ文化



 みなさんは“もんぺ”と聞くと、どんなイメージを持つでしょうか。「農作業の時に着る服」というイメージもあるかもしれませんが、私たち『もんぺる』は今の若い世代の方にもファッションに取り入れてもらえるよう、使われなくなった着物を再利用して日常的に活用できるもんぺを製作販売しています。主な活動メンバーは、20代から60代の北広島町在住の女性5人。イベントでのオリジナル商品の販売をメインに活動しています。製作は香川に住む私の母が担当しており、ユーザーの方からの声を元にひとつひとつ手作りしています。

 なぜ“もんぺ”なのか。それは、古くからある着物を無駄にしたくないという思いからです。また、作り手の顔が見えるものを作ることで、衣服を大事にする意識も高まるのではないかと思っています。生地となる着物は、活動を始めた当初は実家にあったものや知人から譲り受けたものなどを使っていました。しかし今では地域の方から、「この着物を使ってくれんか?」と寄付をいただいたり、「曽祖父の形見の着物をもんぺにリメイクして欲しい」と依頼が入ったりすることもあります。


 商品は、メンバーと話し合いながら、人気の形、裾の絞り方やポケットの位置などを調整しつつ企画します。出店する地域によって売れるものがやはり違うので、それに合わせて製造を依頼しています。年に2回、拠点である枝宮八幡神社で販売会を開催し、お客様に直接会って商品の良さを伝えたり、試着してもらうことで、もんぺの良さを知ってもらうことができています。着物ならではの魅力ゆえか、若い方にも気に入っていただけるのはやりがいがあり、とても嬉しいです。


 主なメンバーの5人は全員北広島町在住ですが、地域も年齢もばらばらです。みんなそれぞれの得意なことを生かして活動しています。20代の田中さんは大朝地区の元地域おこし協力隊で、イラストの仕事をしているためチラシやタグの制作担当。30代の前田さんは、藍染や醤油づくりなどの暮らしの知恵を伝える活動のほか、町内の高校やフリースクールにも勤務しています。毎日もんぺを履いてさまざまな場所で活動しており、“歩く広告塔”のような存在です。40代の私は、もんぺるの代表として取りまとめたりイベントなどの窓口をしたりしています。50代の入澤さんは交友関係が広く、もんぺの良さをお喋りしながら広めたり、得意な絵を生かして『もんぺる』のロゴを作成してくれました。また60代の森脇さんは、SNSでもんぺを使ったコーディネートを毎日発信しており、2021年にはその写真を展示する写真展も開催しました。このように、みんなができることを持ち寄って、『もんぺる』は成り立っています。


里山に暮らす自分たちが
「ときめく」ことを大切に


 2009年から、芸北にある義母の自宅を開放して「おばちゃんち」というワンデイショップのイベントを、10年間実施しました。子育て世代のお母さんたちが、ハンドメイド雑貨などを販売するというものでした。そこで私の母が手作りして送ってくれたもんぺを販売したところ、「おしゃれじゃね!」といった声をもらい、好評だったのです。義母と実母の2人の“おばちゃんパワー”が、その後も継続的にもんぺを販売するきっかけを作ってくれました。

 2017年、現在の「ひろしま里山グッドアワード」の前身である「さとやま未来大賞」の案内がきた際、これは面白そうだなと思って応募してみることにしました。当時はまだチーム名もできていなかったため、知人との会話をヒントに、アウトドアメーカーの名前を参考にして『もんぺる 』と名付けました。


 おかげさまで、「さとやま未来大賞」で大賞に選んでいただき、その後は取材の依頼やイベント出店依頼で忙しくなりました。来た依頼はどんどんやりたくて、ほとんど私ひとりで企画の決定をしていました。そんな2年間を過ごすなか、メンバーとの意識の差が生まれ始めてきたのです。もう一度チームのみんなで仕切り直すことにし、『もんぺる』としての方針をあらためて考えました。

 見えてきたのは、私たちが本当に大切にしたかったこと。それは「里山で暮らす自分たち自身がゆかいに過ごすこと」と、「この自然豊かな地域を大切にできるように環境に配慮すること」でした。

 私たちは以前から「ときめき資本主義」という言葉をモットーにしています。里山で暮らす中で、自然の美しさやときめきを感じる瞬間が溜まっていくと、豊かさをさまざまなところで感じながら生活できる、という考え方です。里山にはどうしても、人が少ないなどのネガティブなイメージが付きまといます。確かに集落の人口減少は、日々切実さを増す問題ではありますが、人は、楽しくやっている人のところにこそ集まると思うのです。だから「私たちはこんな楽しいことをしているよ。」と自分たちが日々にときめきを感じながら、これからも発信していこうと思っています。そして自分たち自身がいきいきと活動する姿を見せることで、若い世代にも何らかの影響を与え、学び合えるような地域づくりを行っていきたいと考えています。


環境への配慮もできる
里山発のファッション


 現在取り組んでいるのは、商品を安定してお客様に届ける体制を整えること。具体的には、オリジナル商品の型紙を作成し、もんぺの製作ができる人を増やすことが課題です。また、それに伴って雇用を生み出すため、価格設定をもう一度見直す時期に来ていると思っています。お客様のために買いやすい値段に据え置くことと、『もんぺる 』として継続的に活動していくことのバランスについて、日々模索中です。


 普段私は八幡高原を中心に、環境保護の活動をする認定NPO法人「西中国山地自然史研究会」で働いています。活動の中で多くの場面で伝えられてきたのは、“環境保全のために保全する”ということでした。しかし現在は“保全から活用へ”という考え方を団体としても意識しています。

 自然環境は、経済活動にとっても社会生活にとっても、一番の基盤になる大切なもの。災害などのピンチが訪れても、エネルギーや食べ物を確保できる暮らしがこの地域で実現できたらと思っています。私はその基盤としての環境保護や環境づくりを行うことで、若い世代にバトンをつないでいきたいと考えています。


 この仕事を通じて環境保護の観点から見た時、『もんぺる 』の活動は環境にも配慮できるものだと気付きました。SDGsについて世界全体でさまざまな取り組みが行われる昨今、ファッション業界はCO2の排出が多いとして問題視されています。その業界に属する私たちだからこそ、持っているものをリメイクすること、染め直したり繕ったりしながら大切に使うことを、もんぺを通して提案していきたいと思っています。