【チーム500登録者インタビュー】広島市 佐藤 祐太朗さん

【チーム500登録者インタビュー】広島市 佐藤 祐太朗さん


自分ごとの“地方創生”は
スキルと熱量を持ち寄って作る


佐藤 祐太朗さん


広島市出身。普段は株式会社E.S CONSULTING GROUPにて地方創生などの自治体の支援事業を行う。


佐藤さんのキーワード


1. 市町を越えたチーム結成
2. ブランド価値の高め方
3. 地方創生は目の前のことから




「地域をなんとかしたい」
3人の思いが集まったスタート




 私はコンサルティング会社に所属して、地方自治体の会計の仕事などを担当しています。仕事柄、様々な地域の財政状況を見ているのですが、決算書を作っていると、過去の数字や財政状況の変化などが見えてきます。すると自ずとその地域の課題がわかるので、課題解決のために何か具体的にアクションを起こすことができたら、という思いがずっとありました。

 普段から仕事で江田島市に関わっていますが、江田島市は人口が減少したり税収が下がったり、という課題を抱えています。市側も民間企業に所属している人も、町おこしをしたいと思っている方と出会うことがあります。しかしその度に、それぞれに目指しているものは一緒なのになかなかうまくいってないなと感じていたのです。いつからか、自分がハブの役割になりたいと思うようになりました。

 そのようなときに、オンラインサロンのコミュニティで様々な業種の人が自分の実現したいことを話したり情報交換したりする中、現在のメンバーとの出会いがありました。私と同じように自分の地域を元気にしたいと思っていた、三原市の米農家・吉岡さんと江田島市の酒蔵で杜氏をしている住岡さんです。吉岡さんと仲良くなったのは、オンラインサロン内で吉岡さんが自分の町をよくするためにコンサルティングを受ける際、お手伝いをしたのがきっかけです。また、住岡さんとは兄弟が同じオンラインサロンのメンバーだったり同級生だったりという縁で打ち解けました。

 私自身、地域おこしに取り組むなら、江田島の人だけでないものにしたいと思っていたため、三原市、江田島市という町の垣根を超えた3人でチームを結成したのです。



 3人で地方創生のために何かしようと考えはじめたとき、米農家が作る米があって酒蔵の杜氏さんがいるから、日本酒ができるよねという話になりました。そこで考えたのが“地域を元気にするための酒づくり”でした。

 米農家の課題はやはり高齢化です。その根本には、なかなか儲かる職業ではないため次の担い手が少ないという現状があります。米を出荷するだけでは、食べていけるほど十分な利益を得られない場合もあるのです。そのため、コシヒカリを使った新しいブランド品として、価値を高めることが大切だと考えました。

 また、酒造側としてすでに「江田島ブランド」に認定されている商品はありますが、さらに多くの方に知っていただくために、新商品は「広島ブランド」の認定を目標にしました。


プロセスを魅せる方法で
ブランド価値を高めていく




 初めて挑戦する日本酒づくり。しかも一般的な精米歩合をあげて行う高級な酒づくりとも違ったアプローチとなり、まずは戦略を立てました。

 これまでの日本酒づくりでは、精米歩合が上がれば雑味がなくなり美味しくなりますが、その分当然ながらお米は削られているということになります。米農家さんにとってそれは、寂しさを感じる部分でもありました。

 コシヒカリという、食べるお米としても質の良いものを日本酒にしたらどうなるのだろう?高級なブランド日本酒になり得るのだろうか?という疑問を抱えたところからの挑戦でもありました。

 誰もコシヒカリでの日本酒づくりをしたことがなかったので、味をどんなものにするのかなども、すべて自分たちで決めることになります。ものづくりの過程を通して江田島に来てもらうきっかけにしたいという思いがあったため、プロジェクト型のワーケーションを企画。味をどんなものにするのか、ボトルやブランドのデザインをどうするのか、などという商品プロデュースの過程から一般の方を募集して来ていただきました。

 そのようなやり方を選んだのは、今までにない挑戦をしているのだから、出来上がった商品の質で勝負する「アウトプットエコノミー」ではなく、作る過程から魅せる「プロセスエコノミー」で勝負ができると考えたからです。

 ワーケーションでは、利酒師や日本酒好きの大学教授などを巻き込み、酒蔵で利酒会を開催。20種類くらいの日本酒を試飲して、味や商品のラベルなど、参加者の皆さんと販売戦略を考えて「HIROSHIMA 路」が出来上がりました。



 私が「さとやま未来円卓会議」に登壇したのは2021年。様々な企業や行政からの支援を期待できることに魅力を感じたため、すぐにエントリーしました。私たちのコンセプトは『広島の地方創生のシンボルとなる日本酒を作ろう』というもの。自分たちが言うだけではなく、構成団体である行政機関の声を聞くことで、具体的なフィードバックや協力を得られるのではないかと考えました。円卓会議では自身の活動についてのプレゼンを行うのですが、とにかく熱意を込めることを大切にしました。プレゼンの練習では冷静になろうとしていましたが、熱意を前面に出すことが大事だとの助言をもらい、本番では自分でも涙がこみ上げてくるような熱いプレゼンになりました。その結果、「HIROSHIMA 路」が江田島市のふるさと納税の返礼品に決まったほか、三原市のふるさと納税返礼品にも採用される予定で、現在調整中です。


地方創生を“自分ごと”にしながら
江田島から世界へ発信する日本酒


 私たちの手掛ける日本酒は、最終的には世界進出を目指しています。そのために現在は海外のクラウドファンディング挑戦に向けて準備中です。国内ではオンライン販売が主ですが、東京にある広島の日本酒を扱うSAKEBARから問合せもいただき、クラウドファンディングの返礼品以外での販路もこれから広げていきたいと思っています。



 今叫ばれている地方創生は自分ごとになりにくいと感じます。私には子供が2人いますが、彼らが大人になったとき、元気がない寂しい街になって欲しくない。その気持ちが大きくて、次の未来を担う世代がワクワクして生きていけるような地域を残していくことが、自分にとっての地方創生だなと考えています。



 現在は、県立広島大学のビジネススクールで経営戦略などの専門的な知識について学び直しながら、自分自身の働き方に役立てています。これからは会社の終身雇用がなくなり、プロジェクト型の仕事が増えていく時代になると予測されています。地方創生についても、どこかの企業が引っ張ってやっていくのではなく、本気で取り組もうとする個人が集まって“スキルと熱意”で取り組んでいくことになるでしょう。その時必要になるのが、ビジネスのフレームワークを提示しディレクションをする人。そういう人材になれるよう、学びながらこのプロジェクトの成長にもつなげていきたいと思っています。