【チーム500登録者インタビュー】三次市 延原真由子さん

【チーム500登録者インタビュー】三次市 延原真由子さん


関わる人と手と手を取り合い
大好きな上田町を未来へ繋ぐ


延原 真由子さん


広島市出身。進学を機に大阪で生活をはじめたが、結婚後「子育てをするなら田舎がいい」との思いから2009年に三次市へ移住。現在はTeto tetoのリーダーを務める。


延原さんのキーワード


  • 大好きな地域に恩返し
  • 思いを伝えることの大切さ
  • 手と手を繋いで広島ブランドへ



迎え入れてくれたこの地域の人々に
自分たちにできることで恩返し



 三次市の南に位置する上田町。ここで私たち『Teto teto』は2021年から活動しています。“一人の手でできることは小さいけれど、みんなの手と手を合わせれば大きなことができるかもしれない”との思いからこのチーム名を付けました。のどかな里山の風景が広がる、この地域に惚れ込んで移住してきたお母ちゃんたち3人で、ほうじ茶シロップとはぶ草茶の製造と販売を行っています。

 チームリーダーを務める私が移住してきたのは13年前のこと。その頃からこの町には『よつ葉会』というおばあちゃんグループがあり、そこで作られていたのがはぶ草茶でした。はぶ草茶とは昔から主に広島県の県北地域で親しまれているお茶。昔は多くの人が自宅ではぶ草を栽培しお茶にしていましたが、加工の手間がかかるためその軒数も減少。そのため『よつ葉会』のはぶ草茶は、地域の人から愛される人気商品でした。できる人ができることをやって、地域の人に愛される商品を作り続けている姿がとても素敵で…。いつか自分もこんな風になりたいと憧れていました。皆さんの平均年齢が80歳を超えて体が思うように動かなくなってきたこともあって、はぶ草茶の事業を引き継がないかと声をかけてくださいました。移住して以来、『よつ葉会』の皆さんにはたくさん支えていただいてきたので、やっと恩返しできる時がきたと感じ、引き受けることを決意しました。


 同じ頃、やはり高齢を理由に町内の貞野製茶園さんもお茶園を続けていくことが難しくなるだろうという話が舞い込んできました。製茶工場を続けていくには、さまざまな課題があります。しかし、「今ある貞野さんのほうじ茶を、私たちならではの方法でリデザインすれば、より多くの人に届けることができるのでは?」と考え、それぞれの強みを生かして動き始めました。料理が得意なメンバーが主体となり、2021年5月からレシピ開発など、商品化への取り組みを始めたのです。



ひろしま「ひと・夢」未来塾とともに
できあがっていったチームと商品


 商品化への取り組みの中で特にターニングポイントとなったのは、2021年7月から12月まで参加した、広島県の事業「ひろしま『ひと・夢』未来塾」です。未来塾には『起業準備コース』と『地域密着型人材育成コース』の2コースがあり、毎月の講義とワーク、そしてそれぞれに合わせたサポートを通じて、中山間地域における起業や地域づくりのノウハウを学び、これから展開していきたいプランを作ります。

 私は「起業準備コース」を受講しました。メンバーから「真由子さん、こんなのあるよ。面白そうじゃない?」と何気なく提案されたことがきっかけでした。地域の役に立つことがしたいという気持ちはあったものの、チーム自体もできたばかり。事業内容などはまだふわふわした状態でしたが、未来塾で“ビジネスプランを組み立てる中で重要な思考”を養っていきました。


 しかし、大変なこともありました。ビジネス的思考が徐々にでき上がり、頭の中の考えも明確化され、ますますプロジェクトに熱が入ってきたある時、メンバーから「あなたは誰とやっているんですか?」と言われてしまったのです。地域奉仕的な気持ちで始めていたため、“事業”にするための学びが進むにつれて私の情熱だけが先走り、気づけばメンバーとの間に温度差が生まれてしまっていました。学んだことをチームに反映してきたつもりだったけれど、言葉にするだけではうまく伝わらないと、この時痛感しました。私が作業に入れず2人に負担をかけている面もあったので、きちんと話し合う時間を取りました。未来塾の講師の方にも実際にメンバーに会ってサポートをしてもらうことで、ようやく、同じビジョンを持って前に進めるようになりました。私にとっては、こういった経験もリーダーとしての意識を養う糧になったと思っています。

 未来塾の講義は基本的にオンラインでしたが、10月にリアル講義の機会がありました。そこで、私たちの商品を実際に手に取ってもらいながら、試飲会をさせていただいたのです。すでに試験的な販売は開始していたものの、実はまだ商品のラベルも仮のもので、どうしようかと内心焦っていました。そこで出会ったのが、講義の同じグループにいたグラフィックデザイナーさんです。タイミング的にもご縁を感じ、すぐにラベルデザインを依頼しました。すでに起業されている方も多かったので、皆さんとの交流からもたくさん刺激を受けました。



 そして、10月に商品が完成し、本格的に販売を開始。現在は、オリジナル商品だけでなく、コンポストの製造販売をされている県内の企業の商品にも、参加させていただいています。ほうじ茶シロップを作る上で、どうしても出てしまうほうじ茶の茶殻。これを、コンポストの資材として使っていただくことになったのです。“地域のために何かしたい!”という熱意を元に参加した未来塾は、『Te to teto』というチーム自体も私たちの商品も、一緒に成長することができた大切な時間となりました。


大好きな町の景観を残したいから
手と手を取り合って挑戦する



 上田町に移住する一番の決め手となったのは“景観の美しさ”です。広島市の中でも自然に近い場所で過ごした子ども時代、嫌なことがあった時も、豊かな自然が癒してくれた感覚がありました。学生時代に大阪へ出たものの、結婚当初から子育てはやはり自然に近い場所でしたいと考えていました。夫の理解もあり、すぐに移住を決断。広島県内に絞って移住先を探す中で、仕事などの面で最適な環境だった三次市にたどり着きました。中でも上田町に出会ったのは『NPO法人ほしはら山のがっこう』がきっかけ。ここを訪れるたびに、里山の自然の美しさや移住者を受け入れてくれる人々のあたたかさに触れ、この町に住むことを決めました。



 現在『Teto teto』は、この事業を広島ブランドに発展させるべく奮闘中です。今の目標は、原材料であるお茶の製造を、ゆくゆくは自分たちで担えるようになること。製茶技術を引き継ぎながら、やがて雇用を生み出すことができれば、この小さな地域の中でも経済が回り、地域を未来に残すことにつながると思うからです。そんな中、私たちの活動を知ってくれた地域の方からは、「加工してくれるなら、はぶ草の栽培はできるよ」という声かけもいただくようになりました。そういった方たちの思いをうまく受け取れるよう、仕組み作りもしていきたいと考えています。

 農業従事者ではない私たちが、中山間地域のためにできることは限られているかもしれません。だからこそ「私たちの持っているスキルでできることは?」とワクワクしながらひとつずつ課題に向き合い、さまざまな人と“手と手”を取り合って挑戦を続けていきたいと思っています。